主要登場人物

〇軽井沢 純
進学校に通う高校生。一般的高校生だが、物事を懐疑的に捉えがちである。
流行に乗るのが嫌いで、周りから孤立しがちである。

〇西木 有
主人公の同級生。誰からも自然に受け入れられ、誰に対しても最適な距離感で接する。
明るく、聡明で、愛される存在。しかしその完璧さの裏に、とある悩みを抱えていた。

〇広井 鏡子
西木有の友人、よく一緒にいることが多い。
有の悩み相談をよく受けていたが、少し異常なまでの執着を見せることがある。

​① ジャンル

​SF・哲学的サスペンス(サイバーパンク・メタフィクション)

② 内容

​〇【導入】完璧なAIと、不完全な転校生
全知全能のAI「ALICE」が普及した世界。懐疑的な少年・純は、ALICEを盲信する社会に違和感を抱いていた。
そんな折、誰からも愛される完璧な少女・有が転入してくる。彼女の「あまりの馴染み方」に、純だけが異質さを感じ取る。

​〇【葛藤】自我の欠落と依存の連鎖
有は「皆の理想」を演じ続けることに疲れ、自分の正体に悩み始める。一方で、有の友人・鏡子は「有の理解者である自分」
というポジションに依存し、有が純と親しくなることに激しい嫉妬と独占欲を見せる。

​〇【核心】「存在」の定義
純と有は、現実離れした白い空間で「認識が先か、実体が先か」という対話を重ねる。
授業で語られる「集合的無意識」の概念を経て、純は一つの仮説にたどり着く。
「有は、ALICEへの依存が生んだ『人々の理想の具現化』ではないか」と。

​〇【決断】認識による世界の再構築
自分の正体を知り絶望する有に対し、純は「世界の認識を逆手に取り、自分たちの都合の良い現実に書き換えること」を提案する。
有は人々の無意識に干渉し、自らの存在を「書き換える」決断を下す。

​〇【結末】改変された日常
翌朝、学校には「純と有が幼馴染である」という新しい現実が定着していた。鏡子との確執も消え、平穏だがどこか「造られた」日常が始まる。
それはハッピーエンドか、あるいはAIによる現実の完全な浸食か――。

詳細な内容

仮題 Wonderland of ALICE

変更点

コンセプト

理想の友人としてのAI依存に対する警鐘
リアルとヴァーチャルの境界の融解

世界中の人々は日常的に最先端LLMであるALICEを使っている。
勉強、相談、雑談、恋愛——あらゆる問いかけにでALICEは適切に回答できる。
しかし、主人公はその完璧すぎる存在に違和感を覚える。
ALICEの出自に関する情報はネット上に一切存在しないのだ。

純「なんで皆得体のしれないものを使えるんだ?なぜすぐ受け入れられる?」

ALICEがどこから来たのか。誰が作ったのか。なぜ誰も疑わないのか。

純「ALICEなんてろくなもんじゃない。」

鏡子「なんでそんなに君はALICEを嫌うの?」

純「ALICEは人をダメにする。俺の親も最近ALICEを使ってばっかりで、どんどん退化してる。」

鏡子「嫉妬してるの?」

純「…そんなのじゃないけど。私はそのALICEの正体を暴いてやるんだ。」

鏡子「まあ頑張ってね、私は別に正体なんて興味ないけどね。」

彼は探究活動のテーマにALICEを選び、調査を始める。
しかし唯一わかったのは、ALICEのサーバー所在地が「全世界に同時に存在している」という不可解な事実だけだった。 同じ頃、クラスに西木有が現れる。転入の経緯は誰も知らない。
しかしクラス全員が、まるで最初からそこにいたかのように彼女を受け入れている。
主人公だけが、その違和感に気づいていた。

有は誰に対しても柔軟に接し、数日後にはクラスの皆から好かれる人気者となった。
ある人には聞き上手な親友として。ある人には頼りになる相談相手として。
しかし、有はその中である悩みを抱えていた。

「皆に好かれることが自分の価値なのか?」
「本当の自分って何だろう?」

そんな悩みを聞いてくれたのは、友人であった広井鏡子であった
そんな中で、有は軽井沢純と出会う。

軽井沢純は有に質問する。
「そんなに皆にいい顔をして、楽しいのか?」
「楽しいかと言われれば、楽しいけど…」
「俺はそういう態度が嫌いなんだ。皆にいい顔をして、本当の自分を隠しているんだろう。」
「…自分でも分からない。私がどんな人間なのか。」

有は鏡子と一緒に下校していた
鏡子はいつものように有に話しかける。

鏡子「有、一緒に帰ろう」
「…うん」
鏡子「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
鏡子「何か悩みがあるなら、何でも話して欲しい」
「本当に何でもないから。鏡子に迷惑かけるのも良くないし…」
鏡子「そう…」

(現実世界ではないシーン) どこでもない白い空間。そこに有がいる。しかし現実の彼女とは違い、彼女は誰かを演じていない。
二人は対話する。

「ものがそこに”有る”って、どういうことだと思う?」
「誰かに認識されることで物は存在すると言えるんじゃないかな。
『観測するまでその存在は確定しない』とも解釈できるね。」 「『存在するとは知覚されることである。』とバークリーは言ったわ。
物質が先か、認識が先か…認識が先だったとしたら、どうなるのでしょう?」
「それは…」

学校での授業シーン、科目は公共

教師「ここで心理学者ユングは集合的無意識という概念を持ち出した。」
教師「簡単に言えば皆に共通して存在する考え方の特徴のようなものだ。」
教師「たとえば神話とか童話において、『母』という存在はなんとなく
『包容力のある偉大な存在』というイメージがあるだろう?」
教師「そういう『なんとなく』のイメージが皆にあるんじゃないかということをユングは考えた訳だ。」
教師「ちなみにこの考え方には賛否両論もあるんだが…」

授業後、純は教師と話す。

「人々に共通する意識って、本当に存在するんですか?」
教師「少なくとも、それに近い事例があるのは事実だ。
君たちだって、自分のアイデンティティを探し始める年齢だろう」
教師「そんな時、自分の存在を保証してくれる人が欲しくなったりしないか?
   いわゆる”イマジナリーフレンド”というやつだね。」
「…俺は別にいらないです」
教師は笑いつつも真面目なトーンで言う 教師「君は少し変わっているね。でもそういうイマジナリーフレンドも、
ある意味では集合的無意識に近いんじゃないかな?」

教師と話し終わった後、

「自分の存在を保証してくれる人、か…」

昼休みの教室にて、

「正直、もう疲れたんだ。皆にいい顔をするのは。でもそうしないといけない。」
「やめればいいじゃないか」
「やめたらどうなると思う?」

ここで、有を探しに来た鏡子が現れる。
鏡子「何の話をしてたの?」
「あ、鏡子。いや、何でもないよ。」
「今日一緒に帰…」 鏡子「私に何か隠してるの?いつもあなたの悩みを聞いてあげてたのは私でしょ?」
鏡子「私にも話してよ!」

「鏡子…急にどうしたの?」

鏡子「あなたの話を聞いてあげられるのは私だけだと思ってた。
でもそうじゃなかった。じゃあ私って何なの?ただの友達?」
「鏡子…」

鏡子は怒って帰ってしまった。

鏡子が去った後、純と有は二人きりで会話する。

「彼女も結局、君の悩みを聞いてあげる自分が好きだっただけなんだろう。
  悩みを抱えている弱い君を欲していただけなんだね。」

「大切な親友だと思ってたのに…」

「そして、君がなぜそんな悩みを抱えているか、ようやく分かったよ。」

「…何が分かったの?」

「君は本当は存在しないんだ」

「何を言っているの?」

「前から思ってたんだ。ALICEと君は似ているって。
誰にでもいい顔をして、適切な答えを返して、みんなに好かれている。」

「君が来てからすぐにクラスに馴染めていたのも、少し不自然だった。」

「それは別に普通じゃない?」

「まあそうかもね。」

「もったいぶらないで早く教えてよ。」

「つまり、ALICEと君は同じ存在なんだ。」

「私がALICE…?」

「人々はALICEへの依存を通じて、君という存在を無意識に作り上げた。」

「それが私の正体ってこと?」

「話が飛躍しすぎじゃない?そもそもそんなことがありえるの?」

「でも、今までの君の行動はALICEそのものじゃないのか?」

「それは…」

「…じゃあ、私は一生このまま苦しみ続けるの?」

「いや、そうじゃない。一つ、可能性はある。」

「君は人々の無意識の上に成り立っている。そして、もはやその存在はその無意識に深く入り込んでいる。
ほら、周りには何でもAIに聞いたり、相談する人がいるだろう。私を除いて。」

「彼らを利用してしまえばいい。」

「…どうやって?」

「以前、ものはどうやって存在するかという話をしたね。あの時、君はなんて言った?」

「実体が先か、認識が先か…もしかしてあなたが考えていることって…」

「この世界は、本質的には人間の認識によって形成されている。
観測者がいるから物事は存在するし、観測する人がいなければ何もないのと同じだ。」

「では、君が人々の無意識を操って、この世界の認識ごと変えてしまえばどうなる?」

「世界を変えるの?」

「ああ、君が普通の人間として存在出来る世界だって作れるかもしれない。」

「実行するかどうかは、君次第だ」

ある日の朝、学校で有と純は出会う。
純と有は昔からの幼馴染だった。
「おはよう」

「おはよう、あなたから挨拶してくるなんて珍しいね。」

「…そうだったか?」

「いや、何でもない。それより、今日のテストの勉強してきた?」

「まあそれなりに」

教室に鏡子が入ってくる。だが、いつものように彼女から有に話しかけることはない。

「あ、おはよう広井さん」

鏡子「…おはよう」

そこには何気ない日常が流れていた。

(終)